◆項羽と劉邦/司馬遼太郎
おススメ度
「夢中で読んだの!すごく面白かったの〜!」
圧倒の筆致で描く英雄譚。
 「勇なし、智なし、武なし」の能なし劉邦(しかも下品)と、楚の名家の生まれでカリスマ的な「武人」項羽。そして2者の攻防を巡って活躍する個性豊かな人間像。本当に、司馬遼太郎という人は、淡々とした飾り気のない語り口で、登場人物をものの見事に生き生きと、まるで目の前で動いているかのように描ききってしまう。その確かな筆致には驚嘆させられます。
 時は紀元前、日本はまだ縄文時代で採集生活をほそぼそとやっていた頃、大陸では秦という国家が法治により初めて広大な大地を統一し、道をつくり長城を築いていました。また個人は縦横家、儒家、老荘家など能力や思想の優れた者は王からも尊重され、自由に生き方を選んでいたのです。更に全くの他人が「義」という倫理一つで肉親の情や国への忠誠を超えて尊ばれるという当節独特の流儀があるかと思えば、20万もの兵を騙してあっさりと抗(あなうめ)にしてしまったり、飢えた農民が大流民となって村々を襲い回ったり、何か人間の知・欲両面を用いた壮大な実験がこの大陸で行われているような…その俯瞰図としても有効な本書。歴史が躍動しながら頭の中に飛び込んできます。ああ、なんて楽しい読書だろう(ウットリ)。
 今から思えば笑ってしまうような権謀術数が十分に機能していたことも面白い。2大巨頭は自分では戦略を立てない(立てられない?)ので、どうにかして自分の主に天下を取らせようと必死で働く側近のひとりひとりが魅力的でした。特にバカな劉邦についたショウカさん(漢字が出ない)や張良さん、韓信さんなど苦労性の皆さんが…。中には釜で煮られたり、塩漬け肉にされたり、劉邦の身代わりになって殺されたり、んもう本当に大変な犠牲です。だからこそ
劉邦はあくまでも滑稽で可愛げのある男として描かれています(そうでなければ浮かばれない)。それにしても自分だけが助かろうとして、部下に止められても止められても、娘と息子を何度も馬車から投げ飛ばすとは…(涙)
 有名な「背水の陣」や「四面楚歌」、「虞美人」の逸話も読めて満足です。
 内容と関係ありませんが「函谷館(かんこくかん)」って何のことか本書で初めて知りました。小さい頃♪箱根の山は天下の嶮…♪の歌を口ずさみながら、いつも何やろ?と思ってたんですが。
 やがて国家を覆いつくす単一思想・宗教の暗闇に個人が埋没する前の中国のお話。文句なし!出会えて良かった本の1冊となりました。小難しい漢字名を覚えられる記憶力があるうちに、ぜひとも読んでおきたい、お勧めの一冊です。